東京ヤクルトスワローズの背番号27。
かつて大矢明彦、そして「球界最高の捕手」と謳われた古田敦也が背負ったその番号を、今まとうのが中村悠平選手です。
ヤクルトでは正捕手として3度のリーグ優勝と1度の日本シリーズ優勝に貢献し、2023年のWBCでは日本代表の正捕手として世界一にも輝きました。
強肩と読みの深いリードで投手陣を引っ張り続けたキャリアは、怪我と復活の繰り返しでもありました。
原点と学生時代
中村は1990年6月17日、福井県大野市生まれ。
小学5年生のとき友人から誘われて野球を始め、最初は左翼手として出発し、その後内野を一通り経験したのち、同じ小5の夏から捕手に転向しました。
父親の草野球を幼い頃から見て育った少年が、マスク越しにグラウンドを制する「捕手」というポジションに惹かれていったのは、自然な成り行きでした。
中学時代は生徒会長を務めるほど真面目で、3年時には県選抜チーム「福井クラブ」で全日本少年軟式野球大会にも出場しています。
福井県立福井商業高校では、強肩強打を武器に1年秋から正捕手の座をつかみ、2年連続で夏の甲子園出場を果たしました。
高校時代から谷繁元信や矢野燿大のプレーをテレビで研究し、リード研究のためにノートをつけ続けたといいます。
その量は高校1年から3年の2年間で10冊を超えるものでした。
ノートを積み重ねる習慣が、のちの配球力の土台になったことは言うまでもありません。
プロ入り後の歩みと転機
2008年ドラフトで東京ヤクルトスワローズの3巡目指名を受けて入団。
福井商業高校からヤクルト及びその前身球団に入団した初の選手となりました。
入団後は契約金の一部を母校へのピッチングマシン購入に充てるなど、故郷への感謝を忘れない性格が早くも顔を出します。
プロ入り後はすぐには一軍の舞台に立てず、地道にファームで力を蓄える日々が続きます。
当時の正捕手・相川亮二からさまざまな助言をもらい、その背中を追い続けました。
転機が訪れたのは2014年から2015年にかけてのこと。
2014年は開幕から打撃好調を維持し、監督推薦でオールスターゲームへの初出場を果たします。
シーズン閉幕まで一度も離脱することなく99試合に出場し、打率.298と3割に迫る数字を残しました。
そして翌2015年、正捕手として136試合に出場し、チームの14年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献。
ベストナイン、ゴールデングラブ賞、最優秀バッテリー賞をいずれも初めて受賞しました。
ところがその後は怪我との戦いが続きます。
コンディション不良による離脱が重なり、2020年はわずか29試合の出場にとどまりました。
それでも中村は腐らず、自分の役割を果たし続けます。
迎えた2021年、チームに再び大きな風が吹きます。
「小さいことから自分を見つめ直す。挑戦したい」との思いから自ら背番号を2に変更してキャンプに臨み、古田敦也から直々に指導を受けました。
その言葉「お前がその気になれ」を胸に刻んだシーズン、中村は攻守ともに輝き、チームの優勝を力強く牽引。
オリックスとの日本シリーズでは通算打率.318を記録し、チーム防御率2.09を誇る投手陣を支えて日本シリーズMVPに輝きます。
翌2022年も連覇に貢献。
86試合に出場して打率.263、5本塁打、28打点の成績を残し、守備率10割、盗塁阻止率.364で2年連続のベストナインとゴールデングラブ賞を受賞しました。
プレースタイルの特徴と主な実績
中村の持ち味は、投手を安心させる配球にあります。
野球解説者の野村弘樹が「あの表情や動きや雰囲気を見ていると安心して投げられる気がする」「たとえ失点しても彼の場合はキャッチャーのせいにしたくなくなるタイプ」と語っているように、ピッチャーの状態を読みながら試合を組み立てる能力が際立っています。
高校時代から重ねてきたリード研究は、プロでも続いています。
対戦相手のデータを細かく分析し、その日の投手の調子を見ながら配球を変えていく。
強肩も大きな武器で、盗塁阻止率でも安定した数字を残し続けています。
主なタイトル・表彰歴はベストナイン(2015・2021・2022年)、ゴールデングラブ賞(2015・2021・2022年)、最優秀バッテリー賞(2015年)、日本シリーズMVP(2021年)。
2023年のWBCでは正捕手として日本代表に貢献し、世界一を手にしています。2025年には通算1000安打も達成しました。
2021年オフ、FA権の行使が可能なタイミングにあったにもかかわらず、シーズン終了後のファン感謝デーでヤクルト残留を表明。
その後、大矢明彦や古田敦也といった名捕手が背負い、長らく準永久欠番扱いとなっていた「27」への変更が発表されました。
憧れの番号を継ぐ日を夢見て積み上げてきた歳月の重さを、そのまま背中に乗せているかのようです。
まとめ
福井の少年が友人の誘いで野球を始め、ノートを10冊以上書き尽くしてリードを学び、怪我を乗り越え、ヤクルトの「27番」を背負うまでになった。
中村悠平のキャリアは、才能だけでは説明がつかない積み重ねの記録です。
2023年には地元・福井県から栄誉賞も贈られ、故郷の誇りとしても認められるほどの存在になりました。
プロ入りから18年目を迎える2026年シーズン。
35歳になった今も扇の要として若い投手陣を支え、チームの浮上を狙っています。
勝利のためなら心を鬼にして厳しい言葉もかける、真のリーダーへと成長した「ムーチョ」が、今季どんな仕事をするか。
それを見届けるのも、ヤクルトファンの楽しみのひとつです。





















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